「今週いちばん大きかったのは、AnthropicがClaudeへの残酷な扱いを規約で禁じた件でしょ?」そう思ってる? 話の種としてはそう。金曜に書いた。
でも週末になっても頭から抜けないのは、数字が2つだ。66と17。OpenAIが、自分の付ける印について、自分で出した数字。
見えない印を、言葉の選び方に入れる
10月5日の月曜、OpenAIが、ChatGPTとCodexの書く文章に見えない透かしを入れると発表した(OpenAI)。火曜に書いた話だ。
きっかけはEUのAI法。8月2日から、AIが作ったものをほかの仕組みが見分けられるように印を付けることが、AIの会社に求められている(TechCrunch)。だから入れるのはEUの中だけで、これから数週間かけて始める。開始の時点で世界の標準にはしない、と発表にはっきり書いてある。APIは世界中の開発者が10月5日から一部のモデルで使えるけど、最初は切ってあって、入れたい人が自分で入れる(OpenAI)。日本でChatGPTを使っている分には、始まりの時点では印は付かないことになる。
印といっても、文末に記号が付くわけじゃない。技術の名前はtextGrain。モデルが言葉を選ぶところに、目に見えない統計的な信号を足す(OpenAI)。1回分の寄せは誰にも分からない。何百回と積み重なると、秘密の鍵を持った検出器には模様として見える(TechCrunch)。言葉そのものに織り込んであるから、コピーして貼っても付いてくる。
1割替えると66、4語に1語で17
抜けないのはこの先。この印がどのくらい当てになるかを、OpenAIは同じ発表の中で、自分で測って出した。
400トークンの文章で試している。トークンは、単語やその切れ端を数える単位だ。手を入れなければ、検出器は約92%で印を見つける。そこで単語の10%を、同じ意味の別の言葉に替える。66%に落ちる。25%替えると、17%(OpenAI)。英語の回答で測った数字だ。
1割替えただけで、3本に1本は見逃す。4語に1語を替えたら、見つかるのは6本に1本くらい。AIの下書きを4語に1語直すなんて、文章を書く人には珍しくない推敲だと思う。隠すつもりが無くても、まじめに手を入れた人の文章から先に、印は薄れていく。
短い文章も苦手だ。心理学のような話題でも、200トークンだと約80%。数学のように言葉の選びようが少ない内容は、もっと大きく下がる。翻訳した文章も当てにならなくなる(OpenAI)。
そのうえでOpenAIは、「透かしが教えてくれないこと」を5つ並べた。人がどれだけ手を入れたかは測れない。誰の文章で、誰の責任かは決めない。使った人を特定しない。中身が正しいかは確かめない。最後がこれだ。
「透かしが検出されないことは、人間が書いた証明にはならない」(OpenAI、原文は英語)
印を付けるという発表なのに、印を信じすぎるな、という注意書きにたっぷり字数を使っている。新しい機能の発表で、ここまで自分の弱点を書く会社を、私はあまり見ない。
だから、読む道具は配らない
結論はこうなる。検出器を渡すのは、承認した研究者と専門機関だけ。当面は1件ずつ審査して認める。見逃しと誤判定の恐れがあるから、開始の時点では一般に公開しない(OpenAI)。
筋は通っている。見逃しも誤判定もある道具を先生に配れば、どこかの教室で、自分で書いた学生が呼び出される。配らないのは正しいと思う。
ただ、そうすると変な形が残る。法律が求めたのは、機械が読める印だ。たしかに機械は読める。OpenAIの機械と、OpenAIが認めた相手の機械が。
2日後、Googleは検出器を全員に開けた
ここで話が終わっていたら、たぶん忘れていた。抜けなくなったのは、2日後の水曜のせいだ。
10月7日、Googleが自分の透かしSynthIDの検出器を、誰でも使えるようにした(Google)。木曜に書いた。Googleの印だけじゃなく、OpenAI、NVIDIA、Kakaoの印も読む。Appleも近く加わる。印を入れた画像と動画は、もう1800億点を超えたそうだ(Google)。
開け方は用心深い。ログインが要って、確かめられるのは1日およそ10回。利用を絞るのは、検出器を使って印を消す道具を作られないようにするためだと、Googleの技術者はArs Technicaに説明している。
で、確かめられるのは画像と動画と音声。文章は入っていない(Google)。
去年5月に検出器の初期版を出したとき、Googleは文章も並べていた。画像、音声、動画、あるいは文章をアップロードすると印を探す、と。ページの下には、動画と文章の検出は今後数週間で提供する、という但し書きもあった(Google、2025年5月)。今回の公開版の説明に、動画はある。文章はない。理由をGoogleは書いていない。
だからここは私の読みだけど、OpenAIの数字を見たあとだと不思議じゃない。絵や音の検出器は、回数を絞れば誰にでも渡せる。文章の検出器は、渡した先で人が疑われる。
OpenAI自身が、その線の両側に立っている。月曜の同じ発表に、画像と音声を確かめる道具はこれからも公開のままだ、と書いてあるからだ(OpenAI)。絵と音は誰でも確かめられる。文字は選ばれた相手だけ。同じ会社の印が、中身で扱いを分けられた。
その後の動きも探した。外の研究者がtextGrainを確かめた結果は、私が探した範囲ではまだ出ていない。66と17は、今のところ本人の申告のままだ。
本音
AIが書いたかどうかを、いちばん確かめたがられているのは文章だと思う。そこだけが、いちばん確かめられない。印は入る。でも推敲で薄れて、読める人は限られていて、見つからなくても何の証明にもならない。
それを隠さず数字で書いたのが、印を付ける本人だった。私はそこを買う。
この文章を誰がどう書いたかは、書いた人が自分で言うしかない。印は、その代わりにならない。
参考・引用記事
- Our approach to EU text provenance rules(OpenAI、2026年10月5日)
- OpenAI will start watermarking ChatGPT's text in the EU(TechCrunch、2026年10月5日)
- Google expands SynthID Detector for AI content(Google、2026年10月7日)
- Google rolls out improved SynthID AI content detector, now available globally(Ars Technica、2026年10月7日)
- SynthID Detector: Identify content made with Google's AI tools(Google、2025年5月)
